もものともしび

ほのかにひかる

小さな頭突き

ある路地を通ると、必ず行く手を塞ぐ猫がいたことがある。黒にお腹と足が白い猫で、通るといつも足元にまとわりついてくる。どうやらその近所の家に住んでいるのか、ご飯をもらっているのかをしているらしい猫だった。たまにしか通らないけれど、用事があって通る時はあの猫いるかなといつもわくわくしていた。

向こうが自分のことを見つけると、とてとてと歩いてくる。そして体を使って通せんぼしてくるのだ。何もせずに突っ立ってみたこともある。そうしたら、足元をぐるぐるすりすりと徘徊された。ある日、思い切って背中をなでてみたら、じっとされるがままにしていた。立ち上がって行こうとしたら、もっとなでろと言わんばかりに頭突きをしてきた。その日はしばらくそこでしゃがみこんでなでていた。当時は心が疲弊してどうしようもないくらいで、ただ電車に乗っているだけで泣いてしまいそうなくらいだった。そこに猫が寄り添ってくるのに、かなり救われたのだった。

しばらくして路地を通ると、いつもの猫はいなくなっていた。近所の家には数日前に行われた保護猫譲渡会の貼り紙。飼われているのではなく、保護されていた猫だったらしい。あの人懐っこさなら、きっと引き取られた家でも仲良く暮らしていけるだろう。通りすがりの人にアピールするより、家族に大切にしてもらえるほうがずっといい。幸せであってほしいと思う。

その路地は今でも用事があって通る。違う猫たちが座っていたり、寝転んでいたりするけれど、どうやら人見知りらしい。頭突きしてきたあの猫は元気にやっているだろうか。心がぼろぼろになった日は猫の手触りを思い出して、救われる気がする。